婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
 これまでテレビに映る有名人の裸しか見ていないけれど、目の前にある身体が普通の人より綺麗なのは推測できる。

 ますます自分の貧相な身体をさらけ出すのが恥ずかしいと思った。

「茉莉子」

「はいっ」

 なんとか返事だけはする。

「俺とするのはそんなに嫌か」

 さっきまでの意地悪な態度が嘘のように、とても真面目な顔をして言う。

 まただ。結婚の話を迫られた時にも、自分が嫌われていないかを気にしていた。

 形式上の妻であっても円満でありたいと思っているのなら、私としてはありがたい。

 しかし今問われているのは彼自身がどうというのではなく、夫婦がする行為について。

 夫婦の営みは政略結婚に含まれる付属品みたいなものだと捉えていたので、そもそも最初から拒否をするという考えもなかった。

「私に……拒否権はあるのですか?」

 遠慮がちに問うと、新さんは表情を変えないまま「ない」と冷たく言い放った。

 期待通り過ぎる返答に、さすが、と感心すらしてしまう。
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