婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
「正直なところ嫌かどうか分かりません。それ以前に怖い気持ちが大きくて」

「怖い?」

「まさか、私に経験があると思われてはいないですよね?」

 新さんは何度か瞬きを繰り返してから、「処女か……」と、ぽつりとつぶやく。

 面倒だとか、ひどい言葉を浴びせられたくなくて矢継ぎ早に口を開く。

「物心ついた頃から政略結婚させられると聞かされていました。決められた方がいるのなら、他の方とそういった行為に至るのはよくない気がしていましたし、好きな人もできなかったので、古典的ではありますが純潔を守ってきました」

 ペラペラと早口でまくし立ててからそっと上目遣いで窺うと、どこか熱をはらんでいるような瞳をした彼が私を真っ直ぐ見下ろしていた。

 どう思われているのか怖くなって身体はさらに縮こまる。

「キスは?」

「経験があるかどうかと聞いているのであれば、答えはノーです。誓いのキスがファーストキスだなんて、ちょっと素敵じゃないですか?」

 冗談めかして口にした言葉だったが、言ってみた途端本当に素敵ではないかと思えてきた。

 しかも誕生日だしね。よくよく考えたらそう悪いものでもないわ。
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