婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
 能天気な思考を頭の中で浮かべていると、唐突に新さんが頭をタオルでクシャクシャっと掻いた。冷たい水の粒が顔に飛んできて「わっ」と目をつぶる。

 すると今度は頬や目元に湿った布の感触を受けて何事かとあたふたする。

 優しい行動だなと思うけれど、新さんが使ったタオルで触れられるのはちょっと照れくさい。

「も、もう、なにをしているんですか。あっ、寒くなったんでしょう? いつまでもそんな姿でいると風邪引いちゃいますよ」

「だったら茉莉子が温めて」

 私が温めるって、どうやって?

 首にかけていたタオルをするりと取ってカウンターキッチンの上に置くと、逞しい腕が背中に回されて力強く抱きしめられた。

 私とはまるで違う、しなやかな筋肉をまとった色気のある男の人の身体。

 温かくて厚い胸板からはトクトクと刻んでいる心臓の音が伝わってきて、それほどまでに密着しているという状況が身体を熱くさせる。

 胸の奥から迫り上がってきた得体の知れない感覚にぶるっと震えた。
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