婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
「新さん、あの」

「なんだ」

 耳たぶが湿るほどの距離で囁かれ、痛いくらいに鳴っている心臓が熱で焼け焦げそう。

「……初めてとは知らなかった。次からはもっと大切にする」

 ぶっきらぼうな彼の口から出てきた台詞が信じられなくて、胸の中に閉じ込められながらひっそりと息を呑む。

 縮こまっている私の肩にそっと優しく手のひらが触れ、顔を上げるとゆっくりと綺麗な顔が近づいてきた。

 反射的に瞼を閉じるとすぐにやわらかな熱に唇を塞がれた。

 一回目とも二回目とも違う。言葉通り大切にされていると錯覚するキス。

 そんなはずがないのに。

 触れるだけのキスをして名残惜しげに離れた唇が、今度は角度を変えてついばむように吸いつき私を翻弄する。

「んっ……」

 たまらずこぼれた吐息交じりの甘ったるい声を合図に、優しさが残っていたキスが急速に荒々しいものに移り変わった。

 息継ぎがうまくできなくて苦しい。

「ま……待って……」

 必死に懇願したのだが、情けない声は新さんの唇に吸い込まれる。

 唇の割れ目を執拗になぞる舌先が強引に口の中に入ってきて、いとも簡単に私の舌を見つけ出して絡め取った。
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