婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
 頭が痺れておかしくなりそう。

 まともに立っていられなくなって逞しくて広い背中に必死に手を伸ばす。

 その瞬間、新さんは弾かれたように私と距離を取った。

『やってしまった』というような、なんとも複雑な表情を浮かべていて、感情が伝染してこちらまで戸惑う。

「悪い。ここまでするつもりじゃなかった」

 きまりが悪そうに首筋に手をやって、私からふいっと目を逸らした。

「いえ、こちらこそ……」

 わりと最初の方からキスが気持ちよくてのめり込んでしまった。

 ぼーっとしていたので記憶があやふやだし、もしかしたらはしたない行動を起こしたりしたかもしれない。

「服を着てくる」

 愛想がない声で告げられてポツンとひとり寂しくキッチンに残された。

 まだ余韻で頭がクラクラしている。口元にそっと手をやり、触れられて熱を帯びている唇を指先で触れる。

 キスがこんなにも気持ちがいいものだなんて知らなかった。

 たった数分の出来事だったけれど自分が自分じゃなくなったみたいで、駆け足になった鼓動はまだまだ落ち着きそうにない。
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