婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
 透き通るような美しい肌で清潔感に溢れた美貌。ふとした瞬間に見せるけだるげな表情からは、大人の色気がこれでもかと溢れ出ている。

 艶のある黒髪はきちんと整えられていて、髪型は会う度に変わっている。だからか印象が違って見える度にドキッとさせられる。

 高い鼻梁は形が美しく、二重瞼を縁取る睫毛は影を落とすほど長く、その奥にある色素の薄い琥珀色の瞳はどこまでも吸い込まれそうで、女性なら誰もが見惚れるだろう。

 しかし彼の笑顔は精密に作られた仮面で、本来の彼が無愛想で冷たい男だというのを私は知っている。

 私、東来茉莉子と、桜宮新の出会いは今から五年前に遡る。

 老舗『東来百貨店』の社長を父親に持つ当時十八歳の私には、幾つかの縁談が持ち上がっていた。

 私の両親は子宝に恵まれず、お父さんが五十過ぎ、お母さんが四十手前にしてようやく娘を授かった。

 お父さんは女である私に跡を継がせる気はなかったのだが、信頼の置ける後継者がいつまで経っても見つからない。あと何年、娘のそばにいてあげられるかも分からないし、私が成人する頃に自分は古希を迎えているので、お父さんは大手企業に吸収合併してもらい、東来百貨店を辞任したいと考えていた。

 そこで一番初めに名を上げたのが、新進気鋭のアパレルメーカーとして注目を浴びている『アンシャンテリュー』だ。
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