婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
 簡単に恋愛感情を抱いたのは、彼が夫だからという理由ではないはず。恋愛経験ゼロの私でも分かるほど、心と身体が新さんに触れたがっているから。

「あっ、や……」

 敏感な部分を刺激されてゾクッと鳥肌が立つ。得体の知れない感覚が這いあがってきて、我慢しようとしても声が漏れてしまう。

「嫌? 止める?」

 途切れ途切れの声が嫌がっているように聞こえたのか、動きを止めた新さんに瞳を覗き込まれた。

 止めないでほしい。

 口を真っ直ぐに結んで顔を横に振る。

 もっと触れてほしい。そう言いたくなったけれど伝える勇気はない。

 しばらく無言で見つめ合った後、壊れ物に触れるような手つきで頭を撫でられた。

 こんな顔もするんだ……。

 子供を慈しむような眼差しに胸がきつく締め上げられる。

「痛いだろうけど、怖くはしないから」

 優しい声音で諭すとひたりと唇を重ね合わせ、再び甘く鋭い快感を私の身体に与え続けた。

 頭がくらくらして、もう新さんのことしか考えられない。

「我慢できない」

 余裕のない色をともした瞳に吸い込まれて目が離せない。ずっと見ていたいと思ったのに、突き刺さるような甘い痛みと共に新さんを全身で感じて、目を開けていられなかった。

 意識が飛びそうになる中で何度も「茉莉子」と呼ばれ、求められているのが嬉しくて、新さんと結婚できてよかったと心の底から思った。

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