婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
「私は……覚悟は決めていました」

 たった一日で新さんを好きになった単純な私の現在の気持ちはひとまず置いておいて、好きだと自覚するまで悩みは尽きなかった。

 しかし、いろいろな感情がないまぜになって思い悩んでも、結局行きつく先は妻として務めを果たさなければいけないということ。

「婚約してから母に聞かされた話なのですが、母はなかなか子供を授かれなくて長い間苦しんだそうです。当時は近年ほど不妊治療が進んでいなかったようですし、跡継ぎを産めない母に心ない言葉を浴びせる者もいたとか」

 新さんは腕の力を弱めて自身の身体から私を離すと、窺うように顔を覗き込んだ。

「長い間妊娠できなかった原因は調べていないので分からないままだそうです。二人目こそは男の子を、とも考えたらしいのですが、父が心から母を愛し、懸命に周りから守っていたおかげでとやかく言う人たちがいなくなり、母も娘一人でいいのだと思えるようになったらしいです」

 ほしくて堪らなくて、待ち望んだ子供だったから尚更あなたが大好きなのよ、とお母さんに言われた時、胸がいっぱいになって涙が止まらなかった。

 当時まだ十代だった私にとって、子供を産むなんて遠い話だと現実味がなかったものの、いつかは自分の子供にこうやってたくさんの愛情を注ぐのだと胸に誓った。
< 71 / 166 >

この作品をシェア

pagetop