婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
「ごちそうさま。今日もうまかった」

「お粗末さまでした」

 新さんはこうして毎回料理を褒めてくれる。それがすごく嬉しいし、もっと美味しいものを作ろうという気持ちにも繋がる。

 まだ食事が終わっていない私をリビングに残し、新さんはリビングから出ていったかと思えば、すぐにネクタイとジャケットを羽織って戻ってきた。秘書が迎えにくるまでまだ少し時間がある。

 ネクタイが曲がっているのに気づき、直そうと椅子から立ち上がろうとしたところで、新さんがジャケットから携帯電話を取り出して耳元にあてた。

「はい。……その件に関してはこの前も言っただろう。……今から出るところなんだ。悪いが切らせてもらう」

 短い時間ではあったが、電話に対応している間は終始温度の感じられない冷ややかな表情だった。

 新さんのこんな顔、久しぶりに見たわ。

「お仕事の電話ですか?」

 近寄ってネクタイを直す。
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