婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
「いや。馴染みの奴からだ」

「そうですか」

 友人という解釈でいいのかな。

 不意に以前かかってきた女性の名前が脳裏をよぎった。

『この前も言っただろう』って言っていた。まさかあの人? こんな早朝に連絡してくる用ってなんなのかしら……。

「見送りはいい。まだ食べている途中だろう」

 後頭部に回った手によって上を向かされ、落ちてきたキスを受けとめた。チュッと可愛らしいリップ音を立てて離れていった唇は弧を描いている。

「行ってくる」

 いつもなら行ってきますのキスをされた後はドキドキと胸が躍るのに、今日は心ここにあらずといった心境で見送り、すとんっと椅子に腰を下ろす。冷たくなったご飯はいつまで経っても減らなかった。

 午前中に家事を終わらせて、自宅から持ってきた自分のパソコンから早速アルバイト情報を検索してみる。
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