婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
「今日はもうお開きにしてもらいましょうか」

 新さんは強がりで無理をする性格だ。

 最近では熱を出したりしている様子は見られないが、二、三年前までは毎回と言っていいほど体調を崩していた。

 大学を卒業してアンシャンテリューで勤め始めたばかりだったし、それほどまでに慣れない仕事が大変だったのだろう。

 お父さんに勧められて日本酒まで口にしていたし、元々体調がよくないのなら、なおさら心配になる。

 それに大切な話があるからこそ、運命共同体である彼には万全な状態で臨んでもらいたい。

「ただの寝不足だ。すぐに帰らなければいけないほど眠いわけでもない」

「本当ですか?」

 嘘をついていないか確認するため、顔を近づけて色素の薄い琥珀色の瞳をジッと見つめる。

「茉莉子に嘘をついてどうする」

 そう言って、大きな手のひらで私のおでこをグイッと押しやった。

 あまり近寄るなと言いたいのだろう。

 触れられたおでこを撫でながら苦笑する。

「確かに、私の前で取り繕う必要はないですもんね」
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