婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました


 新さんの仕事はいつ終わるか定まっていないが、この一か月では遅くても二十時という比較的早い時間に帰宅している。

 一時間ほど前に今から帰ると連絡をもらったので、時計と睨めっこしながらまだ終わっていない夕食の支度をしている。

 面接があると分かっていれば、もっと時間がかからない料理にしたのに。

 そうこうしているうちにチャイムが鳴って新さんの帰宅を知らせた。

「おかえりなさい」

 もちろん鍵を持っているけれど、私が家にいる時は使わないのでこうして毎回お出迎えをする。

 私としても外で仕事を頑張ってきた旦那様を迎える方が、感謝の気持ちを伝えやすいのでありがたい。

 玄関の扉を閉めてすぐ新さんは私を抱きしめて頬にキスをした。触れられた唇と鼻先は冷たくて、外の温度が低かったのだと思わせる。

「今日もお疲れ様でした」

 書類がたくさん入っているのか、ずしりと重い鞄を受け取って革靴を脱ぐのを待っていると、彼の身に着けるものに所々滴がついているのが目についた。
< 80 / 166 >

この作品をシェア

pagetop