婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
「もしかして雨が降っていました?」

「ついさっき降り出した。少し濡れたから、先にシャワーを浴びてきてもいいか?」

「お湯が沸いているので、ゆっくりしてきてください。実を言うと、まだ夕飯の支度も終わっていないので」

「珍しいな」

「面接に行っていたんです。食事をしながら聞いてもらえますか?」

 新さんは不意打ちにあったような、ぽかんとした顔つきになった。

 仕事がしたいと言ってからまだ数時間しか経っていないので、進展の早さに驚きを隠せなかったのかもしれない。

「分かった。また後で」

 すれ違いざまに頭をさらりと撫でられて心がくすぐったくなる。

 キスをしたり抱きしめられたりするよりも、こうしたさり気ないスキンシップの方が気恥ずかしいと感じるのは私だけなのかな。

 支度を終えていない私に気を使ったのか分からないけれど、いつもより入浴時間を長めにとった顔は血色がよくなっていた。

「お酒は飲まれますか?」

 新さんはテーブルに並んだ料理を眺めてから「ワインにするから自分でやる」と、キッチンの片隅に設置されたワインセラーに歩み寄る。

「茉莉子はどうする?」

「同じものを、少しだけ」

 こうして尋ねてくる時は、一緒に飲んでほしいという思いが隠されているのだと最近気がついた。だからなるべく付き合うように心掛けている。
< 81 / 166 >

この作品をシェア

pagetop