婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
「茉莉子でも飲みやすいものにしておく」

「ありがとうございます」

 まだまだ量は飲めないし、種類も果実酒や甘みの強いワインに限られるけれど、最近ではお酒の美味しさが理解できるようになってきた。

 たったそれだけで大人な彼に近づけたような気がして、ひとりで楽しい気分になったりしている。

 料理を半分ほど食べ進めたところで話を切り出した。

「よさそうなカフェを見つけて電話をかけてみたら、すぐに面接をしてくださるというので訪ねてきたんです」

「なかなかの行動力だな」

「思い立ったが吉日と言いますし」

「それで?」

「はい。結果は不採用でした」

「その場で採否を決定されたのか?」

「私の他にすでに何名か面接を済ませていたそうで、彼等の方が、私より条件がいいと言われました」

 仕方がないと割り切っていたつもりだったが、誰かに話をすると意外とショックを受けていたのだと実感する。

 沈んだ気持ちを払拭させようとワインを口に含んだ。渋みがほとんどなく葡萄ジュースを飲んでいるみたいに甘い。あまりに甘いので新さんは炭酸と割って飲んでいる。
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