婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
「茉莉子は気にしなくていい相手だ」

「でも向こうはそう思っていないのでは?」

 さっき彼女から投げかけられた言葉たちは聞き間違えではないはず。

 不安を吐露しても、新さんは表情を変えぬまま「心配する必要はなにもない」と繰り返すだけ。

 追及は受けつけないとでもいうような態度を取られては納得せざるを得ない。

「分かりました」

 これ以上話を引き延ばしても空気が悪くなるだけ。

 私の不満を感じ取っているのかいないのか、新さんは壊れものに触れるような手つきで私を抱き寄せて、丁寧な仕草でベッドへ身を横たえる。

 新さんはもう気持ちの切り替えが済んだのだろう。だけど私はそう簡単にはいかない。

 物欲しそうな瞳で見下ろされても、冷えきった心が再び熱を灯すことはなかった。

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