婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
 他人から見た彼の印象は品行方正で爽やかな男性。しかし出会った当初から婚約破棄を狙っていた彼は、私の前では本性を隠そうとはせず、無愛想な一面を存分に発揮している。

 新さんいわく、ご両親ですら彼の素顔を知らないそうだ。

 初めてふたりきりになった時、新さんはいとも簡単に仮面を脱ぎ取った。それは婚約を破棄したいがために、私に嫌われようと考えたから。

 あの日の新さんは本当に酷かったなぁ。今でも思い出すと笑ってしまう。

 高校三年生だった当時はまだメイクが下手だったし、髪だって染めずに真っ黒で、すでに社会人だった彼の瞳にはさぞかしちんちくりんに映ったのだろう。

 散々馬鹿にされ、なんて最低な男だと思ったが、最初から私には結婚の意思はなかったのでこちらとしてもちょうどよかった。

 互いの利害が一致して話し合った結果、本格的に結婚の話が出るまで偽りの婚約者を演じようという流れに行きついたのだ。

 だって、断ったところですぐに新しい見合い相手を紹介されるに決まっている。現に新さんは私との見合いが三度目だった。

 何度もお見合いをするなんて想像するだけで疲れる。
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