婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
「まだ食べていないのか?」

「一緒に食べたかったので」

「悪かったな。すぐに食べよう」

 ビーフカレーを運んだ後にひとり分だけシャンパンをグラスに注ぐ。新さんは不思議そうにして私の顔を見る。

「茉莉子は飲まないのか?」

「それについてお話があるのです。食べながら話しますね」

 あらたまって話をするのはより緊張感が増し、料理を口に入れても味が分からないほどだ。

「これを見てもらいたいのですが」

 服のポケットに忍ばせておいた妊娠検査薬を彼から見える位置にかざす。

 新さんは時が止まったかのように硬直し、わずかな沈黙を経て「妊娠しているのか?」とつぶやいた。

「そうです。生理が予定より遅れていて、今日の夕方に妊娠検査薬を使ったら陽性でした」

 説明しながら新さんの態度が思っていたのと違って不安になる。

「あの……喜ばしくはないですか?」

「えっ? ああ、違う。びっくりして……そうか、俺が父親になるのか」

 言いながらだんだんと顔がほころんでいく。

「おめでとう。いや、ありがとう?」

 いつも完璧な新さんの隙がある様子に心が和やかになり、胸が温かくなった。

「そうか、だからシャンパンか」

「勝手にお祝いムードにしてごめんなさい。実はチーズケーキも用意してあるんです」

 気恥ずかしさから笑って誤魔化す。すると新さんは楽しげに口元を緩めて、珍しくクスクスと笑い声をあげた。
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