婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました

 待ちに待った土曜日。初診は予約が取れないので、朝早い時間から新さんの車で病院へ向かう。

「顔色がよくないけど体調悪い?」

 車に乗り込みシートベルトをして、いざ出発という時に顔を覗き込まれた。

 実は昨日の夜から胸焼けするような気持ち悪さが続いている。

「少し気分がよくないです。つわりなのかなって思っているのですが……」

「そうか。すぐ停めることはできるから、今よりも辛くなったらすぐに言って」

「ありがとうございます」

 今日の健診で赤ちゃんが順調に育っていると分かったらお母さんに報告しよう。つわりはどういう症状が出るのか聞けるし、食欲もないのでなにが食べやすいかも教えてもらえるはず。

 家から車を十五分走らせると目的の総合病院へ到着した。受付を済ませて産婦人科の窓口まで広い院内を移動する。

 朝の一番早い時間に来たのにも関わらず、待合スペースにはすでに多くの妊婦さんや付き添いの旦那さんがいた。

 これまで妊婦さんのお腹を意識して見た経験がなく、大きく膨れ上がった腹部に驚きを隠せない。

 何か月くらいになったらあんなに大きくなるのだろう。

 まだ平らなお腹に手をあて、乗り物酔いのような吐き気と共にようやく実感しはじめた赤ちゃんの存在に不思議な気持ちになる。
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