婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
 しばらくして名前を呼ばれ、中待合室で新さんが待つ中、内診室でお腹の様子を見せてもらえた。

「見えるかな? これが赤ちゃんの心臓だよ」

 しゃがれ声の年配男性の先生が丁寧に説明してくれる。

「これが心臓の音ね。うん、元気だね」

 ドッドッと雑音が混じったようなくぐもった胎児の心音を耳にして、急に目頭が熱くなった。

 よかった。何事もなく育っている。

「妊娠週数はまだはっきりと分からないけれど、おそらく六週前後かな。それじゃあまた、詳しい話は旦那さんと一緒に後でするからね」

 身なりを整えて中待合に出る。ほどなくして診察室へ呼ばれ、ふたり並んで丸椅子に腰掛けて先生からの説明を受けた。

 渡されたエコー写真には、黒い袋の中に白い赤ちゃんの姿がしっかりと映し出されている。

 食い入るように写真に見入っている新さんに、先生が穏やかな声音で私にしてくれた説明をもう一度してくださった。

「つわりはもうあるのかな?」

「昨日から少し気持ちが悪いです」

 先生は「うんうん」と頷く。
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