婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
 料理に関してはかなり不器用な新さんは、基本的にお酒やおつまみを用意する時くらいしかキッチンに立たない。

 心配ではあるけれど、本人がやると言っているのだから任せてみようかな。

「……では、お願いします」

 優しさに甘えて再びソファに腰を下ろした。

 胸や胃の不快感の他にも身体がものすごくだるい。

 ぼーっとしていると、柑橘系のいい香りがこちらまで流れてきた。

 先日ふたりで出掛けた際に一目惚れした、線の模様が綺麗な美濃焼のティーカップふたつをテーブルに置いて新さんが隣に座る。

「ありがとうございます。オレンジですね? いい香り」

 手に取って喉を潤し、ふう、と息をつく。

「新さんもルイボスティーでよかったのですか?」

 一緒に暮らしはじめて、彼が無類のコーヒー好きだと知った。

「なんとなく、一緒のものがいいかと思って」

「やっぱり新さんは優しいですね」

 何気なく口からこぼれ落ちた言葉だった。しかし新さんはピタリと動きを止めて、訝しげな視線を投げかけてくる。
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