婚約破棄するはずが冷徹御曹司から溺愛宣言されました
「どうかしましたか?」

「……いや、そんなふうに思われているとは考えもしなかったから」

「どうしてです?」

「俺は冷たいだろう」

 言われて、どう説明すればいいのかと黙って考える。その間新さんからは物静かな眼差しが送られていた。

「……結婚する前はそうでした。ぶっきらぼうで意地悪だし、裏でなにを考えているのか分からないとまで思っていました」

「なかなかの言いようだな」

「だって、口数は少ないし表情は乏しいし、私が誤解するのも仕方がないと思いませんか? でも今はそう思いませんよ。絶対に幸せにするという言葉通り、妻となってからは大切にされていると感じています」

 思い上がりだったら恥ずかしいな。

 話してから考えが及んで顔が火照った。新さんは「そうか」とつぶやいて、目を伏せて細い息を吐く。

 その表情がなにを意味しているのかは推測できない。

 できれば私について今はどう思っているのか教えてほしかったのに、そのつぶやきを最後にこの話題に触れることはなかった。
 
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