Lose everything
親父に駅まで送ってもらい
空港に向かう途中
「陽真君!!!」
と、呼ばれて
振り替えると
秀一さんだった。
「‥ごっ‥ご無沙汰してます。」
と、頭を下げると
秀一さんは、悲しげな顔をしながら
近づいてきた。
「戻ってきたの?」
「あっ、いえ、妹の結婚式で
今から、また戻ります。」
と、答えると
「そうなんだね。話せる?」
「えっと、三時の飛行機なんです。」
今は、まだ昼を少し過ぎた所だ。
早めにお昼を食べてから
親父が送ってくれた
「せっかく母さんが
作ったんだから食べていけ。」
と、言われ
義母も嬉しそうにしてくれていた。
空港まで、電車でそんなにかからないのに。
「ごめんね。急に、でも少しだけ。」
と、言われて
傾く俺に秀一さんは、
近くのカフェに連れて行った。
秀一さんの前に腰かけると
行きなり・・・
「すまない。」
と、頭を下げられた。
きっと、あの写真の内容だとわかった。
「あの写真だけではないのです。
俺が、もっとしっかりしていたら
良かっただけです。
謝らないで下さい。」
「いや、写真を見ているわけではないが
だいたいわかる。
俺の嫁が、桜子と同じ事をしたら
俺は、いくら幼馴染みでも
そいつを殴るかもしれない。
そして、彼女にも会わないで
欲しいと言うだろう。
と、予測できるんだ。
本当にすまなかった。」
と、言いながら頭を下げる
秀一さんに
「本当に、秀一さんのせいだとは
思ってません。
俺が、行けなかったんです。
だから、気にされないで下さい。」
と、言うと秀一さんは、
「あれから桜子には?」
「・・一度も会っていません。
連絡も・・もちろん。
男として、情けないと思われて
いると思いますが
会えなくて。」
と、言う俺に
秀一さんは、頭をふりながら
「情けないとか、思うわけないだろう。
陽真君、俺が言うことではないと
思うんだけど。
一度、桜子に会って
貰えないだろうか?」
「えっ、どうして?」
「直接に見てもらった方が
いいと思うけど。
桜子・・・笑えなくなってるんだ。」
「‥桜‥‥‥子‥‥が‥‥な‥‥ぜ‥?」
「本人は・・
‥‥笑っている‥‥‥つもりなんだ。
おじさんやおばさんに・・・
心配かけないように。
でも、それが、全然なんだ・・」
「‥‥‥‥そんな‥‥っ‥‥」
「俺は、桜子じゃないから
本心はわからないけど。
桜子には、俺に対して
昔みたいな気持ちは
なかったんだ。
陽真君の事を本当に
愛していたよ。」
「‥そんな‥‥‥俺の‥‥せい‥?‥」
「それは、違うよ。
あの日、飲み会の帰りに
桜子の友人が絡まれていたのを
助けたんだ。
桜子も飲んでいたから
危ないと思って送ったんだ。」
「そうだったんですね。
俺は、妹から写真が送られてきて
桜子に電話したんです。
一人で帰っているのか?と‥‥‥
そしたら、桜子が一人だよと‥‥‥
だけど、明らかに別の人の息づかいが
聞こえました。
だから、秀一さんと初めから一緒
だったんじゃないか‥‥‥と
そんなことあるわけないのに‥‥‥
だけど‥‥‥やましいことがないなら
ちゃんと言ってくれるはずだと
勝手に思ってしまって。
だが、桜子は自分一人だと
言った‥‥‥‥‥
改めて送られてきた写真みたら‥‥
俺が見たことない桜子の顔で・・・
やっぱり、秀一さんには、
勝てないんだと。
何十年も秀一さんだけを
想い続けていた桜子。
降ってわいたような俺が
勝てるわけないと。
桜子に直接言えずに
桜子の御両親にも
挨拶さえできずに
逃げるようにこの地から
出てしまいました。」
「そうだったんだ。
あの日、俺が桜子に会わなければ。」
「それはないです。
秀一さんがいなければ
桜子は無事に帰れてなかったかも
しれません。」
と、言う俺に秀一さんは、
息を吐きながら
「そう言ってくれると
送って良かったと思えるよ。」
と、話してから
本当に男として情けないと
わかっているが・・・
「考えさせて下さい。
俺は、今でも桜子が好きです。
どんなにあがいても
俺の中から出ていってくれないのです。
だけど・・・
その気持ちをぶつけていって
良いのか・・・と思っています。
すみません。
うまく説明できなくて。」
「いや、陽真君が
どんな気持ちで
式場をキャンセルして
どんな気持ちで
今まで頑張ってきた仕事を辞めて
どんな気持ちで
御両親にその事を伝えたのかと、思うと
簡単ではない・・と思う。
だが、ごめんね。
俺にとって桜子は
本当に妹のような可愛い存在なんだ。
だから、あんな桜子を
見るのが・・辛くてね
本当に勝手だよね
ほぼ俺のせいなのに・・・」
そう話す、秀一さんの顔は
本当に辛そうで悲しげだった。
俺は、頭を下げて
秀一さんとその場を別れた。
秀一さんと連絡先を交換して。