【完】喫茶「ベゴニア」の奇跡
いつから、思っていたのだろうか。
そもそも店員と客から友達に昇格してまだ日が浅いこの付き合いで、気持ちに名前をつけてしまうのは幾ら何でも早すぎやしないか。
私が彼に何をしたというのだ。それとも一瞬と気の迷いか。クリスマス前は彼氏彼女が欲しくなる時期だと大学時代の友人らは口を揃えて話していた。
・・・いや、そんなのあの目を見たら、あの真剣な表情を見てしまったら、そんなこと言えない。
あれから喫茶店には行けていない。気まづいとか返事がどうとか、そういう訳ではない。単にタイミングが合わないだけだ。仕事が忙しいとは思っていたが、よく考えれば年末なのだ。決算が近づいているだろうし、残業が続くわけである。世間が年越しの準備で忙しくしている中、1人私ぼーっといつものように時を過ごしている。
目が覚めても、そのまま布団の中でゴロゴロしている。しかし結局は何も考えがまとまらないまま、結局時間が経ち時計の針はすでに正午を回っていた。
「・・・外に出よう」
そう思い立ち、適当に着替えて財布だけ持って外出した。
***
「さ、寒い・・・」
外に出たのは良いものの、この突き刺すような冷たい風が体温だけではなく思考も奪っていく。もっと暖かくしてくればよかった。
無意識に足を運んだ先は、あの日水樹くんと訪れた公園。
この公園を通ることなんて日常的な普遍的な行動の1つに過ぎなかったのに、通るだけでフワフワした浮遊感を覚える。柄にもなく、浮き足立っているのだろうか。
それが答えの全てを示しているのだろうか。
でも、何かがせきとめるように蓋をしている。
この蓋が外れてしまえば、とんでもないものが溢れ出しそうで、飲み込まれそうで、恐怖心ですら覚えた。