【完】喫茶「ベゴニア」の奇跡
「ハムサンドか・・・今度買ってみるよ」
由希くんからもらったパンは、メープルメロンパンで、甘党の彼らしいチョイスである。いつもはサンドイッチを買うことが多い私だが、今この働かない頭を休めるにはこの甘さがとても有難い。このお礼に今度オススメのサンドイッチを由希くんに奢ってあげよう、そう思いながらメープルメロンパンに舌鼓を打っていると、由希くんが「そうだ」と思い出したように話を始める。
「水樹とはどう?うまくやってるの?」
「・・・へ、」
「お、その様子じゃもう言っちゃったみたいだね」
「やっとか」と母親のように頰を緩めながら嬉しそうにする由希くん。その話が彼の口から出るとは思っておらず、思わずパンを喉に詰まらせそうになる。ああ、苦しい。喉も胸も。
「全部、知ってたの?」
「もちろん。何度も言うけど俺と水樹は親友なわけよ、知ってて当たり前でしょ」
「いつから?」
「奈央ちゃんと俺が出会う、ず〜っと前から」
ずっと前から、とはいつだよ。詳しいことを聞きたいのは山々だが、彼は「これ以上は水樹に怒られるから」と言って深くは教えてくれなかった。
そういえばーー
初めて喫茶店で顔を合わせた時、私が店内に足を踏み込んだ時彼は言っていた。「お、噂の橋本ちゃん?」と。私の姿を見てすぐに橋本だと理解していたとなる。まあ情報源は水樹くん以外他はいないが、一方的に由希くんは私のことを知っていたことになるのだ。
全てを知っていて、わざわざ私を隣の席に座らせていたのか。わざわざ下の名前で呼ぶように、連絡先を交換するように、全部分かっていて由希くんは動いていたのだ。
「で?まだ返事はしていないんだ」
「・・・その通りです」
ある程度お見通しなのだろう。私の表情を見て何でも察してしまう彼はさすが恋愛の代弁者だと自ら胸を張っていただけのことはあると思った。