【完】喫茶「ベゴニア」の奇跡
最終話 喫茶「ベコニア」の奇跡

優しく包み込む柔らかい光は街を包み込む。クリスマスソングが鳴り響く。誰もがみんな足早に、帰路につく。色とりどりの紙でラッピングされた箱を抱える人、白くて四角い箱を手に持つ人。ありふれた景色なのに、こんなに素敵だと感じるのはクリスマスイブだからか。それとも私が恋をしているからか。まあどちらでもいい。兎にも角にも、12月24日は訪れた。約束を取り付けたのはいいものの、週明けに加えて今年最後の月曜日の出勤。仕事が忙しくない訳が無い。本日24日もしかり。ちゃんと仕事納めできるように逆算した結果、目紛しい速さで仕事をこなしてきたのだ。昨日の夜だって帰宅後すぐにベットに倒れ込み、次に目を開けた時には日付が変わっていた。それから何とか明日着ていく服だとか何だかんだ準備を進めて午前2時前には就寝できたが、今日も職場へ行けば年末モードの大忙しで、気がつけば22時になっていた。

約束の時間まであと少し。

少し早いかと思ったが、近くに1人で時間を潰せるような場所もないため喫茶「ベコニア」に来てしまった。思い返せば此処にふらっと立ち寄った日から4ヶ月が経とうとしている。初めて来た日は春人に別れを告げられたその足でたどり着き、そして桐山水樹という私が虜になったコーヒーを淹れる綺麗な人と出会った。ついでに恋愛小説家の早乙女ゆきにも。

そして此処で恋をして、今から新しい日常を送るスタート地点になろうとしている。

もう何度もこの扉を開けてきたはずなのに、このドアノブに手を掛ける度に別世界へと足を踏み入れるような感覚になる。いつもは「OPEN」と書かれてあるプレートも、営業終了のため「CLOSE」になっていた。営業終わりの喫茶店、そして他のお客さんもいない喫茶店。今からこの扉を開けて、思い浮かべるこれからの未来に、胸がこれ以上ないほど熱くなった。

力を込めて、ゆっくりと、ドアノブを回る。

いつも以上にそれに重さを感じるのは、新しく始まる関係への覚悟の重さだろうか。それでも、もう迷いなく扉を開ける私の覚悟は当然できている。
< 43 / 56 >

この作品をシェア

pagetop