【完】喫茶「ベゴニア」の奇跡
このカウンターの一番奥の席で、水樹くんの淹れたコーヒーを飲みながら、水樹くんとお喋りして、水樹くんと一緒にもっと沢山の思い出を作っていきたいのだ。たまには由希くんも一緒に。
そんな毎日を過ごす未来に胸が弾む。こんな気持ちは初めてだ。
「・・・それってなんだかプロポーズみたいだね」
「いや、そ、そういうつもりは全く・・・」
「うん。分かってるよ、ちゃんと」
“毎日君のお味噌汁が飲みたい”のようなプロポーズの言葉。そういうつもりはないが、指摘されたらそれはそれで恥ずかしくなってくる。顔を赤くした私に水樹くんはクスリと笑う。
「でも、その時が来たら僕から言うから。それだけは覚えていて」
「・・・楽しみに待ってるよ」
その時、とは詳しくはあえて聞かなかった。まだ知り合ってたった数ヶ月。週に2回ほどのペースで顔を合わせるのも数時間だけ。
「僕は桐山水樹といいます、よろしくお願いします」
「・・・は、橋本奈央です。今日のコーヒーもとても美味しいです」
しかしその短時間の中でも密度の濃い時間を過ごしてきた。
きっと名前を知るずっと前からお互いのことを理解しようとしてきた私たちには、十分恋心を育んできたのだろう。
例え自覚がないとしても、無意識だとしても。
「あ、そういえばケーキがまだ余ってるんだけど一緒に食べない?」
「食べたい・・・!」
水樹くんとの距離が開く。少し寂しい気持ちになるのを紛らわすようにガラス張りの壁に身体を動かした。私は大きく目を見開く。
「・・・雪が降ってる」
「本当だ。すごく綺麗だね」
ゆっくりと柔らかい雪が降っていた。ここに来るまでの道中は全く降っていなかったのに。空から舞い降りる純白の雪。まるで嬉し涙のように見えるそれはとても綺麗で、少しずつこの街を白く染めゆくのだろう。
水樹くんと並んで、商店街を見回す。今まで何度もこの場所から見下ろしているのに、今日はこの世界が一段と美しく見える。きっとそれはイルミネーションが施されているとか、クリスマスだから、そういう理由ではないのだろう。
「ね、より一層この世界が美しく見えるでしょ?」
遠くで由希くんが笑って、そう言っているような気がした。
そんな毎日を過ごす未来に胸が弾む。こんな気持ちは初めてだ。
「・・・それってなんだかプロポーズみたいだね」
「いや、そ、そういうつもりは全く・・・」
「うん。分かってるよ、ちゃんと」
“毎日君のお味噌汁が飲みたい”のようなプロポーズの言葉。そういうつもりはないが、指摘されたらそれはそれで恥ずかしくなってくる。顔を赤くした私に水樹くんはクスリと笑う。
「でも、その時が来たら僕から言うから。それだけは覚えていて」
「・・・楽しみに待ってるよ」
その時、とは詳しくはあえて聞かなかった。まだ知り合ってたった数ヶ月。週に2回ほどのペースで顔を合わせるのも数時間だけ。
「僕は桐山水樹といいます、よろしくお願いします」
「・・・は、橋本奈央です。今日のコーヒーもとても美味しいです」
しかしその短時間の中でも密度の濃い時間を過ごしてきた。
きっと名前を知るずっと前からお互いのことを理解しようとしてきた私たちには、十分恋心を育んできたのだろう。
例え自覚がないとしても、無意識だとしても。
「あ、そういえばケーキがまだ余ってるんだけど一緒に食べない?」
「食べたい・・・!」
水樹くんとの距離が開く。少し寂しい気持ちになるのを紛らわすようにガラス張りの壁に身体を動かした。私は大きく目を見開く。
「・・・雪が降ってる」
「本当だ。すごく綺麗だね」
ゆっくりと柔らかい雪が降っていた。ここに来るまでの道中は全く降っていなかったのに。空から舞い降りる純白の雪。まるで嬉し涙のように見えるそれはとても綺麗で、少しずつこの街を白く染めゆくのだろう。
水樹くんと並んで、商店街を見回す。今まで何度もこの場所から見下ろしているのに、今日はこの世界が一段と美しく見える。きっとそれはイルミネーションが施されているとか、クリスマスだから、そういう理由ではないのだろう。
「ね、より一層この世界が美しく見えるでしょ?」
遠くで由希くんが笑って、そう言っているような気がした。