コイッペキ
「おっはよー。ヒナちゃん」
朝からテンションの高いエマの声に。
「あー、おはよう」
と、テンションの低いヒナ。
エマの後ろには、いつもと変わらないシオンが立っている。
「あれー、寝不足? さては、ドラマでも見てたぁ?」
「あー…、そんなとこかな」
遅くまで勉強してた。
と、言ったら。
エマのことだから、「えー、なんでそんな毎晩遅くまで勉強しなきゃいけないのぉ?」と。
馬鹿にするに決まっている。
ハハハと乾いた笑いを浮かべ。
3人でマンションを出て。
学校へと向かう。

「ねえ、ヒナちゃん。部活って決めた?」
バスに乗り込んでも尚。
エマはヒナの腕を組んでいる。
車内はほぼ、学院の生徒しかいない。
「ほら、一年生って全員強制で部活か委員会に入らなきゃでしょ?」
「え、そうなの!?」
エマの隣では、今日もぼーとしながら。
シオンが立っている。
「あれ、ヒナちゃんのクラスはまだHRで聴いてない?」
「えー、知らない。そうなんだ」
驚きながらも、ヒナはチラッとシオンを見る。
「ちなみに、シオン君は、何部なの?」
ヒナは少し声を張って、シオンに言った。
シオンはヒナの顔を見たかと思うとすぐに目をそらした。
「ああ。シオンはね、手品部だよね。確か」
変わりに答えるのはエマだ。
毎回、3人の会話はこんな感じだ。
ほとんどシオンは喋らない。
代わりに喋るのがエマ。
「手品部? そんなのあるんだ」
車内は、ざわざわと学生の声で溢れている。
「あ、でも。手品部と言っても、シオン。幽霊部員だから」
エマはニッコリと笑って答えた。
ヒナは脳内で、シオンがマジックしている姿を浮かべてみた。
「ちなみに、私は演劇部だよ」
「…そうなんだ。そういえば、中学の時も演劇部だっけ?」
チクリとヒナの胸が痛む。
北海道に引っ越して3年間は何度か恵麻と手紙や電話のやりとりはしたし。
誕生日はテレビ電話もした。
ただ、最初だけだ。
エマは基本的にSNSの類はLINEしかやっておらず。
そのLINEもそこまで執着はしていない。
飽きっぽい性格と面倒臭い性格が災いして。
中学2年と3年はほとんど、連絡を取っていなかった。
ヒナのほうからは、適度に連絡はしたが。
エマから来ないほうが多かった。
だから、エマが中学時代何をしていたかは。
あまり知らない。
「そうだ。シオンは去年。図書委員だったんでしょ? 今年も図書委員やるの?」
ヒナの質問には答えずに。
エマはシオンを見た。
「どうだろ」
聞こえるかどうかのギリッギリの小さな声でシオンが答えた。
(図書委員かー)
もし、同じ委員会になれたら。
シオン君と一緒にいられるのかな…。
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