コイッペキ
その日。
幼稚園から帰った陽菜は、紫恩と2人で遊んでいた。
恵麻と遊ぶのが嫌だった。
そんな陽菜の様子なんて、知らずに「お絵描きしようよ」と言って。
紫恩が陽菜の部屋に遊びに来て。
2人でスケッチブックにお絵描きをしていた。
最初は、静かに絵を描いていた陽菜だったが。
急に涙が止まらなくなった。
「陽菜ちゃん、どうしたの?」
泣き虫だった陽菜が泣くのは日常茶飯事。
紫恩が手を止めて、陽菜を見る。
「シンデレラ…なりたかった。ドレス…着たかった」
ぼろぼろと涙が出てくる。
あの後、陽菜は自分から「やっぱ、魔法使いやる!」と言って。
シンデレラになることを諦めて、魔法使いを選んだ。
シンデレラは、皆の望み通り。恵麻が演じることになった。
「また、恵麻に酷いこと言われたの?」
紫恩が心配そうに陽菜を見る。
陽菜は黙って首を横に振った。
「シンデレラは恵麻だから・・・」
泣きながら言うと。
紫恩は少し黙った。
「…じゃあ、僕が陽菜ちゃんをシンデレラにしてあげる」
「ほんと?」
茶色い瞳が陽菜を映す。
笑顔で紫恩が言った。
「大人になったら、陽菜ちゃんをシンデレラにしてあげて、僕が王子になって迎えにいくから!」
「ほんと? 約束だよ」
指切りげんまんを2人でした。
陽菜は笑った。
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