33歳の初恋【佳作受賞】
 店に着くと、木村先生が予約をしてくれていたようで、個室に案内された。

「あ、こんばんは。松井先生ですか?」

席を立って挨拶をする彼は、恐ろしいほど整った容姿をしている。
身長も見上げるほど高く、多分180㎝近いんじゃないかな。

どうしよう。
ものすごく緊張する。

「松井先生?」

「あ、はい。
あの、初めまして。松井です」

私は、慌ててぺこりと頭を下げた。

「初めまして。木村です。
どうぞお掛けください」

優しく爽やかに微笑む彼は、私より少し年上な感じがする。

「松井先生は、お酒大丈夫ですか?」

「あ、はい。少しなら」

木村先生は、2人分のお酒と食べ物を注文してくれる。

「じゃあ、本題に入りましょうか」

「はい」

木村先生に促されて私は頷いた。

「先程、瀬崎さん… 夕凪先生のお相手の方に
連絡を取りまして、サプライズの歌に
了承をいただきました。
問題は、歌う順番とか、伴奏とか、
曲目とかになると思うんですが、他に何か
ありますか?」

木村先生は手帳を出して、手際良く話を進めてくれる。

「そうですね…
歌う場所も確認した方がいいと思います。
会場に入るのか、
扉を開けて廊下からなのか。
伴奏も、ピアノがあるのか、
CDしかダメなのか。
曲目も、夕凪先生の好きな曲が分かるなら、
それを歌うのがいいと思いますし」

私は、緊張しながらも、意見を述べていく。

話す内容さえ決まっていれば、私も話すことができる。

だけど…

「松井先生は、専門教科はなんですか?」

「音楽です」

と、話がまとまって雑談に入ると、途端に何を話していいのか分からなくなる。

後半、私は何を話したか、よく覚えていないほど緊張して、1回目の話し合いを終えた。

店を出る時、私は自分の分くらいは払おうとしたのだけれど、いつの間にか、木村先生が支払っていたようで、払えなかった。

私が、五千円札を差し出すと、

「いいんですよ、これくらい。
わざわざご足労いただいたんですから、
出させてください」

と断られてしまった。

この人、見た目だけじゃなくて、やることなすことイケメンだから、すっごく困る。
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