きみに命を絶たせないため。



ギイ

重い扉を閉めると、誰が吐いたのか。鈍い悲鳴が。

その時、ひとがいたということに気がついた。

こちらを見た彼は、怒っているようだった。それが怖く見えない。狂っていたのか。私はとうに、狂って……。



「誰?」

低い、不機嫌の塊に揺すられる。

「野、新花(ひばりの にいか)」

「ふーん」

私の名前なんか。知ったところで、どうという関係にもならないだろうに。



「セン。よろしく」

……セン。

「千羽鶴の、千」

……千。



「そっちは」

すぐに漢字の話だと、気がつく。

「野原の野と、新しい花」

互い、ぶっきらぼうに。ぴったりだった。



「なんで、ここに来たの」

相変わらず低い声なのに、どうしてか氷が溶ける。

「……」

言えない。どうしても、言うことなんて。


< 3 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop