贖罪のイデア
二階の教室へ逃げ込んだマイケルは、サボテンを握りしめた両手の手当てをしてもらっていた。
体の弱いマイケルからすればこの程度の距離の逃走すら辛い。そして、そんな不甲斐ない自分を彼は責めた。
こんな様ではイデアを守れない。
「ごめんね、傷を癒す力もあるんだけど、時間がかかってしまうから」
「大丈夫だよ。これくらい包帯で巻いておけば何ともない」
校舎の外では、生徒たちがゾンビの様に彷徨して二人を探している。
校舎内には予想通り生徒はいない様だった。しかしこのまま隠れていても自体は進展しない。
これは『試練』なのだ。何とか打開策を見つけ出す必要がある。
「……あそこにいる大量の生徒たちを全員ヤギに変える、とかじゃないよね?」
イデアの呟きに、マイケルは首を振る。
「現実的じゃないし、そもそも何の解決にもなってない。これは『試練』であると同時に『贖罪』なんだ。イデアが何かしら贖罪に繋がる行動を取らなきゃダメなんだと思う」
「贖罪……」
イデアの深海の様な目が、深く沈んだ。
「贖罪って、何だろう」
「イデア?」
「あの事件以来、私は人生に意味を感じたことなんてない。あるとすればそれは誰かに償うこと。だから一生懸命教会の仕事やミサには参加した。けれどそれで私の罪が償われるなんて思ったことは一度もない」
「イデア……」
「ねえマイケル。私はどうしたらいいの? これがもし私が罪を償う為の試練なんだとしたら、私は何でもする! だからお願い、私にその方法を教えて!」
縋るような目で言われ、マイケルは言葉に詰まった。
イデアが盲目的なまでに『贖罪』に固執していることは知っている。
だが、マイケル自身も彼女の道しるべになるような考えは思いつかなかった。
というよりも……マイケルはイデアを知らな過ぎる。
僕はとっくに眼帯の件に関しては彼女を許している。ならば、一体イデアは何を償おうとしているんだ。
教えて欲しい。もっと僕は彼女のことが知りたい……
「ねえイデア――」
マイケルが口を開きかけたその時。
コツ……コツ……
「……⁉ 誰か来る!」
マイケルが人差し指を口に当て、耳を澄ます。
靴を履いた何者かは、この教室を目指して真っすぐにやってくる。明らかに二人がいることに気付いている様子だ。
マイケルは頷くと、イデアは教室のドアに向かって掌をかざした。
生徒が一人なら問題ない。すぐにヤギに変えて、居場所を移せば済む話だ。
しかし――次の瞬間、ゆっくりと開かれたドアの向こうの人物を見つめて、思わずイデアは声を震わせた。
「え……どうして……!」
体の弱いマイケルからすればこの程度の距離の逃走すら辛い。そして、そんな不甲斐ない自分を彼は責めた。
こんな様ではイデアを守れない。
「ごめんね、傷を癒す力もあるんだけど、時間がかかってしまうから」
「大丈夫だよ。これくらい包帯で巻いておけば何ともない」
校舎の外では、生徒たちがゾンビの様に彷徨して二人を探している。
校舎内には予想通り生徒はいない様だった。しかしこのまま隠れていても自体は進展しない。
これは『試練』なのだ。何とか打開策を見つけ出す必要がある。
「……あそこにいる大量の生徒たちを全員ヤギに変える、とかじゃないよね?」
イデアの呟きに、マイケルは首を振る。
「現実的じゃないし、そもそも何の解決にもなってない。これは『試練』であると同時に『贖罪』なんだ。イデアが何かしら贖罪に繋がる行動を取らなきゃダメなんだと思う」
「贖罪……」
イデアの深海の様な目が、深く沈んだ。
「贖罪って、何だろう」
「イデア?」
「あの事件以来、私は人生に意味を感じたことなんてない。あるとすればそれは誰かに償うこと。だから一生懸命教会の仕事やミサには参加した。けれどそれで私の罪が償われるなんて思ったことは一度もない」
「イデア……」
「ねえマイケル。私はどうしたらいいの? これがもし私が罪を償う為の試練なんだとしたら、私は何でもする! だからお願い、私にその方法を教えて!」
縋るような目で言われ、マイケルは言葉に詰まった。
イデアが盲目的なまでに『贖罪』に固執していることは知っている。
だが、マイケル自身も彼女の道しるべになるような考えは思いつかなかった。
というよりも……マイケルはイデアを知らな過ぎる。
僕はとっくに眼帯の件に関しては彼女を許している。ならば、一体イデアは何を償おうとしているんだ。
教えて欲しい。もっと僕は彼女のことが知りたい……
「ねえイデア――」
マイケルが口を開きかけたその時。
コツ……コツ……
「……⁉ 誰か来る!」
マイケルが人差し指を口に当て、耳を澄ます。
靴を履いた何者かは、この教室を目指して真っすぐにやってくる。明らかに二人がいることに気付いている様子だ。
マイケルは頷くと、イデアは教室のドアに向かって掌をかざした。
生徒が一人なら問題ない。すぐにヤギに変えて、居場所を移せば済む話だ。
しかし――次の瞬間、ゆっくりと開かれたドアの向こうの人物を見つめて、思わずイデアは声を震わせた。
「え……どうして……!」