贖罪のイデア
イデアの前に立っていたのは、イデアと瓜二つの彼女自身だった。

「どうして……私が……!」

「決まっているでしょ? これが『試練』だから」



そう言ってもう一人のイデアは躊躇なく教室に入り、震えるイデアを睥睨する。

「私たちはどんな姿にだってなれる。もちろん貴方も例外じゃない」

「イデア! 何してるの、早くそいつを変えないと!」



マイケルが叫びながら立ち上がるも、イデアはもう一人の自分を見上げたまま動かない。

「イデア! どうしちゃったんだよ、そいつは敵だ!」

「残念。彼女はもう貴方の声は聞こえないみたい」

「くそ……!」



マイケルは教室の椅子を力任せに投げつけたが、偽イデアはそれを片手で容易く受け止める。

「私に普通の攻撃は通用しないよ。それはそこの小娘も分かっていることでしょう?」

「イデア! 逃げろ!」

「フフッ……叫ぶことしか出来ないなんて、無力なナイトね」



そして偽イデアは突然、イデアの首を掴み上げて宙づりにした。

「うっ……げほっ……!」

「やめろおおおおおおお!」



マイケルは椅子を掴んで思いきり偽イデアの後頭部に叩きつけるも、なんと椅子の方が木端微塵に砕けてしまう。

「言ったでしょう? 私に普通の攻撃は効かないって」

「イデアを放せ! 放すんだ!」

「彼女のその気がないなら、それは無理みたいだね」



その言葉に、ハッとしてマイケルはイデアに叫ぶ。

「イデア! 今すぐそいつに『ウリエルの鏡』を!」

「………………」

「イデア⁉ 何してるんだ早く!」

「フフフ……アッハッハッハ!」



二人の狭間で、偽イデアはさもおかしそうに哄笑する。

「無駄無駄無駄! 無駄だよ! だってこの小娘には私を『映す』勇気がないから! だってそうでしょう? そうやってずっと十年間『私』から逃げ続けてきたんでしょう? だったら無理に決まってるじゃん!」

「イデア……どうしてなんだよ……!」



もはやマイケルには、イデアに祈るしかなかった。

「一緒に試練を乗り越えるんじゃなかったのかよ……どうして僕に謝ったりなんかしたんだよ……その結果がこれなのか? こんな結末なら僕は、イデアに出会わない方が良かった……!」



そんなマイケルの吐露に、顔面蒼白となりながらイデアは首を傾け……涙交じりに笑った。



「マイケル……ごめんなさい。やっぱり私は、貴方には償えない」
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