贖罪のイデア
バタン! と偽イデアは突然乱暴にイデアを突き放した。
ゴホッゴホッ! と派手にむせ返るイデアを無視して、偽イデアはマイケルに向き直る。
「あーあ……誰も彼もメソメソして、本当にくだらない。……憂さ晴らしに、貴方にも罰を与えてあげなきゃ」
刹那、偽イデアは素早くマイケルに肉薄すると今度は彼の首筋を容赦なく掴み上げた。
「ぐっ……ううう……!」
「や、やめて! マイケルには関係ないでしょ!」
イデアが我に返って叫ぶと、偽イデアは無表情のまま凄む。
「やめないよ。貴方がそうやって逃げ続ける限り」
「イデア……僕のことは置いて早く逃げて……!」
「今度は自己犠牲? 全くもう……本当に貴方たちは私をイライラさせてくれるね」
マイケルより十センチ以上も小さい少女は、彼を締め上げられたまま嘲り続ける。
「貴方はイデアを守り続けるんじゃなかったの? そこの小娘は贖罪を十年間も願っていたんじゃないの? なのにいざとなった何も投げ出して終わり? ふざけないで! そんな甘ったれた覚悟だったら私がこの手で壊してやるわ!」
そして、イデアの方を向いて白い歯を見せる。
「今度こそ、この男は殺すよ? 貴方は贖罪を果たせなかった、その代償をしっかりと見せつけてあげる」
「やめて……」
「貴方はこの男を死なせた罪悪感に一生苛まれるの。貴方はもう永遠に罪から逃げられない」
「やめて……」
「貴方は逃がしてあげる。『試練』も『復讐』からも何もかも解放してあげるわ。良かったわね、『たった一人の友達』が貴方を守ってくれるおかげで――」
そこから先の偽イデアの声は聞こえなかった。
イデアが手をかざし、『ウリエルの鏡』を解き放ったのだ。
「ぐああああああああああああああああああッ!」
偽イデアは醜悪な獣の様な声を上げて見る見る姿を変え――そして遂に、おぞましい巨大な蝙蝠の姿となって息絶えた。
「ハッ……ハッ……ハァ……!」
泣いているイデアに、マイケルは駆け寄った。
「イデア! 大丈夫か!」
「私はッ……! 私はッ……!」
イデアは泣いていた。
目の前に横たわる巨大な蝙蝠の姿を前にして。
それが元々イデアの姿をしていたという事実に、マイケルすらも衝撃を隠せない。
ここはプロテスタントのインデペンデントスクールだ。
ヤギ、蝙蝠……イデアが変えた生き物が宗教上何を意味するかくらい分かる。
ヤギは大悪魔ルシファーに仕えるバフォメットという悪魔の意味。そして――
蝙蝠は――そのルシファーそのものだ。
「イデア。気にする必要なんてないよ」
泣きじゃくる少女に、マイケルは声をかける。
「あれは『試練』が見せている幻影だ。君はルシファーなんかじゃない。それは一番イデアが分かっていることだろう」
イデアが最後の最後まで『ウリエルの鏡』を使わない理由はこれだったのだ。
彼女は気づいていた……きっと、自分自身に力を使えば醜悪な大悪魔の姿になってしまうと。
イデアはその事実に耐えられなかった。
「でも私は……あの姿を見たくなくて……一度貴方を見殺しにしようとした!」
光を溜めた目で見つめ返すイデアの肩に、手をそっと置く。
「でも最後は助けてくれた。だから君は悪魔なんかじゃない」
「マイケルは私を許してくれる?」
「言ってるでしょ? 僕は最初から君を責めてなんかいない」
「……ありがとう。マイケル」
彼女を励ますマイケルの肩からは……さっき偽イデアが受けた時、一緒に彼も少し光を浴びたのだろう。
小さな天使の翼が生えていることに、しかし二人とも気付かなかった。
ゴホッゴホッ! と派手にむせ返るイデアを無視して、偽イデアはマイケルに向き直る。
「あーあ……誰も彼もメソメソして、本当にくだらない。……憂さ晴らしに、貴方にも罰を与えてあげなきゃ」
刹那、偽イデアは素早くマイケルに肉薄すると今度は彼の首筋を容赦なく掴み上げた。
「ぐっ……ううう……!」
「や、やめて! マイケルには関係ないでしょ!」
イデアが我に返って叫ぶと、偽イデアは無表情のまま凄む。
「やめないよ。貴方がそうやって逃げ続ける限り」
「イデア……僕のことは置いて早く逃げて……!」
「今度は自己犠牲? 全くもう……本当に貴方たちは私をイライラさせてくれるね」
マイケルより十センチ以上も小さい少女は、彼を締め上げられたまま嘲り続ける。
「貴方はイデアを守り続けるんじゃなかったの? そこの小娘は贖罪を十年間も願っていたんじゃないの? なのにいざとなった何も投げ出して終わり? ふざけないで! そんな甘ったれた覚悟だったら私がこの手で壊してやるわ!」
そして、イデアの方を向いて白い歯を見せる。
「今度こそ、この男は殺すよ? 貴方は贖罪を果たせなかった、その代償をしっかりと見せつけてあげる」
「やめて……」
「貴方はこの男を死なせた罪悪感に一生苛まれるの。貴方はもう永遠に罪から逃げられない」
「やめて……」
「貴方は逃がしてあげる。『試練』も『復讐』からも何もかも解放してあげるわ。良かったわね、『たった一人の友達』が貴方を守ってくれるおかげで――」
そこから先の偽イデアの声は聞こえなかった。
イデアが手をかざし、『ウリエルの鏡』を解き放ったのだ。
「ぐああああああああああああああああああッ!」
偽イデアは醜悪な獣の様な声を上げて見る見る姿を変え――そして遂に、おぞましい巨大な蝙蝠の姿となって息絶えた。
「ハッ……ハッ……ハァ……!」
泣いているイデアに、マイケルは駆け寄った。
「イデア! 大丈夫か!」
「私はッ……! 私はッ……!」
イデアは泣いていた。
目の前に横たわる巨大な蝙蝠の姿を前にして。
それが元々イデアの姿をしていたという事実に、マイケルすらも衝撃を隠せない。
ここはプロテスタントのインデペンデントスクールだ。
ヤギ、蝙蝠……イデアが変えた生き物が宗教上何を意味するかくらい分かる。
ヤギは大悪魔ルシファーに仕えるバフォメットという悪魔の意味。そして――
蝙蝠は――そのルシファーそのものだ。
「イデア。気にする必要なんてないよ」
泣きじゃくる少女に、マイケルは声をかける。
「あれは『試練』が見せている幻影だ。君はルシファーなんかじゃない。それは一番イデアが分かっていることだろう」
イデアが最後の最後まで『ウリエルの鏡』を使わない理由はこれだったのだ。
彼女は気づいていた……きっと、自分自身に力を使えば醜悪な大悪魔の姿になってしまうと。
イデアはその事実に耐えられなかった。
「でも私は……あの姿を見たくなくて……一度貴方を見殺しにしようとした!」
光を溜めた目で見つめ返すイデアの肩に、手をそっと置く。
「でも最後は助けてくれた。だから君は悪魔なんかじゃない」
「マイケルは私を許してくれる?」
「言ってるでしょ? 僕は最初から君を責めてなんかいない」
「……ありがとう。マイケル」
彼女を励ますマイケルの肩からは……さっき偽イデアが受けた時、一緒に彼も少し光を浴びたのだろう。
小さな天使の翼が生えていることに、しかし二人とも気付かなかった。