贖罪のイデア
「起きなさい……起きなさい、マイケル……」

ううん……何だよ。うるさいなあ。

僕は眠たいんだ寝かせてくれよ。

マイケルの全身を、心地よいぬるま湯が包み込む。

もっと深く眠りたい。もっと……もっと……

「いいのか?」



突然、遠くから響いていた声が重々しい声に変った。

「そこから先は一方通行だぞ」



その言葉が妙に気になって、マイケルは目を開き――

そして初めて、自分が血の海に沈んでいたことに気付いた。

「うわっ!」



飛び起きるマイケルに、真っ白な何もない空間で見えない何かが告げる。

「愚かな少年よ。この私を再び呼び出すとは」

「貴方はあの時の……」



燃え盛る箱庭を思い出し、マイケルは身震いした。

「これがなれの果てだ。どうだ? 私が憎いか?」



何もかも消えてしまった空間を前をマイケルはゆっくり見渡して……彼は目を閉じて静かに首を振る。

「いいえ。これは僕自身が招いたことですから。それに……」



そして目を開き、彼は決然と告げる。

「貴方は僕の記憶までも奪うことは出来ない」



その瞬間……マイケルの強いイメージが形となって、再び色鮮やかな草花が、美しい箱庭が、真っ白な世界を埋め尽くす。

それを見て、見えない何かは重々しく告げた。

「大きくなったな、マイケル……いや、ミカエル」

「ええ」

「今こそ、我は汝を選ぼう」



そう言って、見えない天使はマイケルの体の中に吸い込まれていく。

凄まじい力の奔流が流れ込んできた。マイケルは翼を広げると、勢いよく箱庭から飛び立つ。



「待ってて……イデア。今、そっちに行くから」
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