贖罪のイデア
「私が、望んだ……?」



戸惑うイデアの前で、豚の怪物が肉切り包丁を振る。

「ええそうよ。この結末は全て貴方が招いたこと。貴方があんな陳腐な罠にかからなければ、貴方がもっと強ければ……何より、私を昔こんな惨めな姿にしなければこんなことにはならなかった。全ては貴方のせい! 貴方のせいなのよ!」

「……それは分かっている。だから私は贖罪を望んで……」

「何も分かってないわよ! アンタの言う贖罪って何⁉ 陰気臭い顔をして毎日教会にこもること? そんなことされても私はちっとも浮かばれないって言わなきゃ分かんないわけ⁉」

「……貴方は、もしかして」



しかし、イデアが言い終える前に豚の怪物は肉切り包丁を振りかぶった。

「あーあ、お喋りも飽きてきたからそろそろ解体ショーを始めましょう! ああ、その忌々しい青い目をくり抜いてやれると思うだけでゾクゾクするわ! せいぜい良い声で鳴きなさい、さもないと――」



そこから先の声は、聞こえなかった。



「さもないと……何だって?」



後ろで立ち上がった少年が、深淵の底から響くような声で問う。

子豚の怪物が振り返るより早く……その胸元からは、真っ赤に燃え盛る炎剣の切っ先が飛び出していた。

見ると、マイケルが神々しい天使の翼を広げながら燃え盛る剣を豚の怪物に突き立てている。

ゴボッ、と血を吹き出しながら豚の少女は笑い……それから最後、イデアに顔を近づける。

「あはは……一本取られちゃった……ねえイデア」



「こんな姿に……なっちゃっても……私って……綺麗……?」



刹那、剣を引き抜かれてドンッ! と目の前に倒れた彼女に、イデアは憐憫の目を向けながら呟いた。



「ええ、とても綺麗よ……ロージー・ケロッグさん」
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