贖罪のイデア
イデアを背中に乗せると、マイケルは翼を開いて空へと舞い上がった。

飛んでしまえば足の傷など関係ない。今の自分とイデアを止められる者などもうどこにも存在しない。

「マイケル、見て! 私たち飛んでる! 飛んでるわ!」



まるで子供のようにはしゃぐイデアに、マイケルは微笑んだ。

「神様なのに空は飛んだことがないなんて、何だか不思議な感じだね」

「だって私には翼なんて生えてないから」

「今はもう、イデアにもちゃんと翼があるよ」

「え? どういう意味?」



背中越しに首を傾げるイデアに、マイケルは語りかける。

「イデアは前より表情が豊かになったし……何かの為に一生懸命行動出来るようになった。もう、イデアは一人で羽ばたいていけるよ」

「……何それ。マイケルが言うと全部臭いセリフに聞こえる」

「ど、どうしてだよ! 僕もたまには良いことの一つくらい言ってもいいでしょ⁉」



二人が言い合っている間にも、高度はどんどん上昇していく。

やがて校舎全体が一望できる高さになった辺りで、マイケルは校門の上空目指して真っすぐ滑空し始めた。

「もう悪夢は終わりだ。元の世界へ帰ろう」



二人には確信があった。

ここは狐男が何らかの力で作り出した幻影の世界だ。きっと、そのピースである二人さえいなくなれば学校は元通りになる。

「うん。そうだね。笑って、マイケルと二人でここを出よう――」



イデアがそう言ったのと――校門から伸びた巨大なツルが、マイケルを貫いたのはほぼ同時だった。



「……え」



イデアは肩によじ登る形に乗っていたのでツルを逃れたが……下腹に風穴を空けられたマイケルの高度はどんどん落ちていく。

「マイケル! マイケル!」



ドシャ!

マイケルはそのまま、イデアをかばう形で地面に叩きつけられた。

イデアも衝撃で地面に投げ出されるも、すぐに倒れたマイケルに駆け寄る。

「マイケル! お願い、こんな所で死んじゃ嫌だよ!」

「イデア……ごめん……君との約束……守れそうにないや……」



力を失い、翼と剣が消えて再び無力な少年となった彼の瞳から涙が零れた。

「結局僕はいつも……どんなに足掻いても……イデアを守れない……イデアを守る天使になれない……ごめんなさい……ごめんなさい……」

「マイケル! しっかりして! また『ガブリエルの箱庭』を使えばきっと――」



その時。

「おめーはまたそうやってそのガキを酷使するつもりなのか?」

「え?」



イデアが振り向いた、その先にいたのは――



茨が絡みつく校門に腰かけた、あの狐男だった。
< 28 / 39 >

この作品をシェア

pagetop