贖罪のイデア
狐男は校門から降りると、ゆっくりと二人に近づいていく。
イデアが彼を睨みつけると、狐男はさもおかしそうに高笑いした。
「おいおい、久しぶりの再会なのに随分と冷たいじゃないか。そんなにそこの眼帯のガキに惚れこんじまったか?」
「……近づかないで」
「おめえに何が出来る? いいか、俺様に指図するんじゃねえ。俺様に指図出来るのはこの天才詐欺師、このギルバート・マクラウド様自身だけなんだからよぉ!」
イデアはマイケル守るように後ずさる。
「おいおいなんだぁ? もしかして二人で力を合わせてこの学校を出るのが最後の試練だとでも思ったか? 考えが甘いんだよ! そんなもん、試練でも何でもねえだろうがぁ!」
「うるさい……! 貴方が何と言おうと、マイケルに手を出すことだけは許さない」
「ハッ! お前がその眼帯のガキをそこまで守る理由は何だ?」
「……彼は私を守ってくれた。それに彼は私の贖罪一部。もしマイケルを失ったら、私は二度と私を許せない」
「違うッッッ!」
狐男の一喝に、イデアは思わず身を震わせた。
「口を開けば贖罪贖罪贖罪……バカの人覚えみたいに同じ言葉を発しやがって、耳障りなんだよ! おめえはそこのガキを自分の道具にしているだけだろうが! 自分を守る盾に使い、自分の『贖罪』を満たす器に使い……何もかも都合よく利用してるだけなんじゃないのか⁉」
「ち、違う! 私はマイケルのことをそんな風に思ってない! マイケルは……マイケルは私の大切な友達なの!」
フッ、とあの箱庭での光景が蘇り……同時に、イデアは今自分が口にした言葉自身に疑問を抱いてしまっていた。
今、私はマイケルのことを初めて友達と言わなかったか?
だとしたら――今まで私は、マイケルのことを何だと思っていた?
「それが答えだ、イデア。お前は今ようやくマイケルのことを友達だと言った。気づかされた。思い知らされた。だが、この期に及んでもおめえの頭は贖罪のことでいっぱいだよな?」
「だって、私は許されないことをしたから……隻眼にしてしまったマイケルにも、ロージーにも――そして、貴方にも」
イデアは真っすぐに狐男の顔を見据えた。
彼は、彼女の瞳から目を逸らさなかった。
「私は貴方にこの世で一番酷いことをした。『ガブリエルの箱庭』でマイケルにも見せられないようなことを。だから私は償わなきゃいけない……その為だったらなんでもする。マイケルに危害が及ぶこと以外なら」
「その結果がこの様か? ロージーは再び殺され、眼帯の小僧は死にかけ……何より、おめえ自身が一番不幸になってるじゃねえか」
狐男は鋭い視線でイデアを射抜き……それから、胸元の銀の十字架を掴んだ。
「これは神の力の一部を宿した十字架だ。あの夜、教会から逃げ出す時に持ち出したブツだ」
「……⁉ それはもしかしてお母さんの……!」
「この世界を作り上げるほどの魔力だ、何だって出来る。お前に今から地獄の苦しみを与えてやることもな」
「……別に構わない。それで少しでも贖罪に近づくのなら」
狐男は、黄色い歯を見せておかしそうに笑う。
「お前が満足するようなシンプルな苦痛なわけがねえだろ? それじゃ意味がねえんだよ……お前が身を持って思い知らないとな」
「私はどんな苦痛も受ける覚悟は出来ているわ」
「そうかぁ? 例えこんなことになるとしても?」
その瞬間、狐男の十字架が眩く輝き……光が収まった時、イデアは背後に気配を感じて振り向いた。
「……そんな……ことって……!」
「どうした? どんな苦痛でも受け入れるんじゃなかったのか?」
マイケルが再び立ち上がっていた。
『ミカエルの炎剣』を構え、血まみれの翼を揺らめかせ、血走った片目でイデアを睨みながら近づいてくる。
「やめて、マイケル……お願い……貴方にだけは、貴方にだけは……!」
「殺されたくないってか? そりゃそうだよな? 自分の道具だもんなあ? 自分の守護天使に殺される神様ほど滑稽なもんはねえもんなあ?」
この世で最高に愉快なショーを見ているかの高笑いし、狐男は無慈悲に告げた。
「さあ殺せ眼帯のガキ。かつて守ると誓ったその女に、その血みどろの手で止めを刺せ!」
イデアが彼を睨みつけると、狐男はさもおかしそうに高笑いした。
「おいおい、久しぶりの再会なのに随分と冷たいじゃないか。そんなにそこの眼帯のガキに惚れこんじまったか?」
「……近づかないで」
「おめえに何が出来る? いいか、俺様に指図するんじゃねえ。俺様に指図出来るのはこの天才詐欺師、このギルバート・マクラウド様自身だけなんだからよぉ!」
イデアはマイケル守るように後ずさる。
「おいおいなんだぁ? もしかして二人で力を合わせてこの学校を出るのが最後の試練だとでも思ったか? 考えが甘いんだよ! そんなもん、試練でも何でもねえだろうがぁ!」
「うるさい……! 貴方が何と言おうと、マイケルに手を出すことだけは許さない」
「ハッ! お前がその眼帯のガキをそこまで守る理由は何だ?」
「……彼は私を守ってくれた。それに彼は私の贖罪一部。もしマイケルを失ったら、私は二度と私を許せない」
「違うッッッ!」
狐男の一喝に、イデアは思わず身を震わせた。
「口を開けば贖罪贖罪贖罪……バカの人覚えみたいに同じ言葉を発しやがって、耳障りなんだよ! おめえはそこのガキを自分の道具にしているだけだろうが! 自分を守る盾に使い、自分の『贖罪』を満たす器に使い……何もかも都合よく利用してるだけなんじゃないのか⁉」
「ち、違う! 私はマイケルのことをそんな風に思ってない! マイケルは……マイケルは私の大切な友達なの!」
フッ、とあの箱庭での光景が蘇り……同時に、イデアは今自分が口にした言葉自身に疑問を抱いてしまっていた。
今、私はマイケルのことを初めて友達と言わなかったか?
だとしたら――今まで私は、マイケルのことを何だと思っていた?
「それが答えだ、イデア。お前は今ようやくマイケルのことを友達だと言った。気づかされた。思い知らされた。だが、この期に及んでもおめえの頭は贖罪のことでいっぱいだよな?」
「だって、私は許されないことをしたから……隻眼にしてしまったマイケルにも、ロージーにも――そして、貴方にも」
イデアは真っすぐに狐男の顔を見据えた。
彼は、彼女の瞳から目を逸らさなかった。
「私は貴方にこの世で一番酷いことをした。『ガブリエルの箱庭』でマイケルにも見せられないようなことを。だから私は償わなきゃいけない……その為だったらなんでもする。マイケルに危害が及ぶこと以外なら」
「その結果がこの様か? ロージーは再び殺され、眼帯の小僧は死にかけ……何より、おめえ自身が一番不幸になってるじゃねえか」
狐男は鋭い視線でイデアを射抜き……それから、胸元の銀の十字架を掴んだ。
「これは神の力の一部を宿した十字架だ。あの夜、教会から逃げ出す時に持ち出したブツだ」
「……⁉ それはもしかしてお母さんの……!」
「この世界を作り上げるほどの魔力だ、何だって出来る。お前に今から地獄の苦しみを与えてやることもな」
「……別に構わない。それで少しでも贖罪に近づくのなら」
狐男は、黄色い歯を見せておかしそうに笑う。
「お前が満足するようなシンプルな苦痛なわけがねえだろ? それじゃ意味がねえんだよ……お前が身を持って思い知らないとな」
「私はどんな苦痛も受ける覚悟は出来ているわ」
「そうかぁ? 例えこんなことになるとしても?」
その瞬間、狐男の十字架が眩く輝き……光が収まった時、イデアは背後に気配を感じて振り向いた。
「……そんな……ことって……!」
「どうした? どんな苦痛でも受け入れるんじゃなかったのか?」
マイケルが再び立ち上がっていた。
『ミカエルの炎剣』を構え、血まみれの翼を揺らめかせ、血走った片目でイデアを睨みながら近づいてくる。
「やめて、マイケル……お願い……貴方にだけは、貴方にだけは……!」
「殺されたくないってか? そりゃそうだよな? 自分の道具だもんなあ? 自分の守護天使に殺される神様ほど滑稽なもんはねえもんなあ?」
この世で最高に愉快なショーを見ているかの高笑いし、狐男は無慈悲に告げた。
「さあ殺せ眼帯のガキ。かつて守ると誓ったその女に、その血みどろの手で止めを刺せ!」