贖罪のイデア
ある日、俺はとある私立高校へやってきた。
この学校の財団を騙して一儲けするつもりだった。その下見に来たのだ。
学校は出入り自由で、呑気なツラをしたガキどもが校内を闊歩していた。
俺は丘を登り、教会までやってきた。
贅沢な作りの建物に金の匂いを感じてワクワクしながら裏手まで回ると、そこには人気のない箱庭が広がっていた。
庭の木の下でまだ年端もいかない少女が座っている。……何をしているんだ?
俺は情報収集の一環も兼ねて彼女に話しかけることにした。俺はもういい歳の大人だが、見知らぬ少女にも怖がられない自信があった。
「こんにちは、お嬢ちゃん。こんなところで何をしてるんだい?」
爽やかな笑顔で話しかけると、少女は顔を上げた。金髪に宝石の様な青い目を湛えた、美しい女の子だった。
「えっとね、本を読んでるの」
「どんな本?」
「赤ずきんって話。その話はね、赤ずきんちゃんっていう女の子が悪い狼に騙されて食べられちゃうの」
「へえ、それは怖いお話だね……その狼は何て悪い奴なんだ」
「……貴方みたいに?」
そう言って首を傾げる少女に、俺は一瞬狼狽した。
だが、すぐに笑顔の仮面を貼り付け直す。
「それはどういう意味かな? 私は人を騙したりなんかしないよ。ただ少しこの学校についてお話が聞きたいだけで――」
「……だっておじさんから嫌な匂いがするもの。たくさんの人を騙してきた匂いが」
「に、匂い?」
何なんだこの子は……ターゲットを変えるか、と俺が話を切り上げかけたその時、
「分からないなら教えてあげる」
少女は掌をこちらに向け、突如鮮烈な光を放った。
「うおっ⁉」
何だ、何が起こった……俺が目を開けると、そこには失望した表情の彼女がこちらを見上げていた。
「ほらね。おじさんは人は食べないみたいだけど、嘘つきだからそんな風になっちゃうんだね」
「何をバカな……」
取り乱す俺に少女は無慈悲に手鏡を突き付ける。
そこに映っていたのは――紛れもなく醜悪な狐の獣面。
気が付くと尻からは黄色い尻尾まで生えていた。
「ぎゃああああああああ!」
俺は野太い声で叫ぶと、あまりの事実に耐えられなくなって一目散に箱庭から逃げ出した。
何だよ……何だよこれ……⁉
これじゃあ、あのクソ親父が言っていた化け物そのものじゃねえか!
その日、俺はあの家を出て以来初めて人間に怯えながら路地裏で寝た。
俺の姿を見た人に化け物呼ばわりされ殺されるんじゃないと、そんな恐怖でいっぱいだった。
寒い夜風にあてられながら、俺の脳裏を今まで騙してきた人々の顔が埋め尽くし責め立てる。
化け物……化け物……化け物……!
「違うッ!」
俺は一声叫ぶと、学校のある方角を睨みつけた。
あのガキ……澄ました顔で俺をこんな醜い姿に変えやがって。
復讐してやる。この天才詐欺師様を怒らせるとどうなるか思い知らせてやる!
この学校の財団を騙して一儲けするつもりだった。その下見に来たのだ。
学校は出入り自由で、呑気なツラをしたガキどもが校内を闊歩していた。
俺は丘を登り、教会までやってきた。
贅沢な作りの建物に金の匂いを感じてワクワクしながら裏手まで回ると、そこには人気のない箱庭が広がっていた。
庭の木の下でまだ年端もいかない少女が座っている。……何をしているんだ?
俺は情報収集の一環も兼ねて彼女に話しかけることにした。俺はもういい歳の大人だが、見知らぬ少女にも怖がられない自信があった。
「こんにちは、お嬢ちゃん。こんなところで何をしてるんだい?」
爽やかな笑顔で話しかけると、少女は顔を上げた。金髪に宝石の様な青い目を湛えた、美しい女の子だった。
「えっとね、本を読んでるの」
「どんな本?」
「赤ずきんって話。その話はね、赤ずきんちゃんっていう女の子が悪い狼に騙されて食べられちゃうの」
「へえ、それは怖いお話だね……その狼は何て悪い奴なんだ」
「……貴方みたいに?」
そう言って首を傾げる少女に、俺は一瞬狼狽した。
だが、すぐに笑顔の仮面を貼り付け直す。
「それはどういう意味かな? 私は人を騙したりなんかしないよ。ただ少しこの学校についてお話が聞きたいだけで――」
「……だっておじさんから嫌な匂いがするもの。たくさんの人を騙してきた匂いが」
「に、匂い?」
何なんだこの子は……ターゲットを変えるか、と俺が話を切り上げかけたその時、
「分からないなら教えてあげる」
少女は掌をこちらに向け、突如鮮烈な光を放った。
「うおっ⁉」
何だ、何が起こった……俺が目を開けると、そこには失望した表情の彼女がこちらを見上げていた。
「ほらね。おじさんは人は食べないみたいだけど、嘘つきだからそんな風になっちゃうんだね」
「何をバカな……」
取り乱す俺に少女は無慈悲に手鏡を突き付ける。
そこに映っていたのは――紛れもなく醜悪な狐の獣面。
気が付くと尻からは黄色い尻尾まで生えていた。
「ぎゃああああああああ!」
俺は野太い声で叫ぶと、あまりの事実に耐えられなくなって一目散に箱庭から逃げ出した。
何だよ……何だよこれ……⁉
これじゃあ、あのクソ親父が言っていた化け物そのものじゃねえか!
その日、俺はあの家を出て以来初めて人間に怯えながら路地裏で寝た。
俺の姿を見た人に化け物呼ばわりされ殺されるんじゃないと、そんな恐怖でいっぱいだった。
寒い夜風にあてられながら、俺の脳裏を今まで騙してきた人々の顔が埋め尽くし責め立てる。
化け物……化け物……化け物……!
「違うッ!」
俺は一声叫ぶと、学校のある方角を睨みつけた。
あのガキ……澄ました顔で俺をこんな醜い姿に変えやがって。
復讐してやる。この天才詐欺師様を怒らせるとどうなるか思い知らせてやる!