贖罪のイデア
二週間目の夜。

その日、俺は体調を崩していてイデアと会わなかった。

その夜は酷い大雨だった。

俺は何故かその雨に酷い胸騒ぎを覚えて一晩中眠れなかった。

そして朝になってようやく晴れても、昼になってもイデアは食事を差し入れに小屋へ現れなかった。

イデアはどうした? 一体昨日、俺がいない間に何があった?

いても経ってもいられず、俺は学校が終わる時間になるとすぐに箱庭に言った。

いつもの木の陰に身を潜めて待っていると、やがてイデアと……見慣れないライトグリーンをした華奢な少年が現れた。

二人が笑顔で話しながらこちらへ向かってくるのを見て、俺はようやく悟った。

悟ったつもりだった……なのに、目頭が熱くなるのが止まらない。

バカだな、俺は。いつかこうなることなんて分かっていたはずなのに。

やがて二人で蝶を追いかけて遊び始めた辺りで、俺はそっと木陰から離れた。

ここで出て行ってあの忌々しい少年を追い払うのは簡単だ。だけどそれは俺の流儀じゃねえ。



俺は高潔な天才詐欺師様だ。子供の平和を脅かす陳腐な子悪党なんかじゃねえ。
だから最後の最後まで……俺は俺のやり方でやらせてもらう。



「おじさん! ごめんなさい!」

その日の夜になると、イデアは俺の小屋に食事を持ってやって来た。

「気にすることはねえよ。俺も昨日一日具合が悪かったしな」

「でも……」

「今朝来なかった理由は聞かない。俺とお前の関係は今まで通り……それだけだ」



その言葉に、一瞬イデアのサファイアの瞳が揺らいだ。

天才詐欺師の俺がそんな些細な動きを見逃すはずがない。

俺は決意を固めると、素知らぬ顔でイデアに笑いかけた。

「食事さえ届けてくれればそれでいい。学校が終わったらお前の好きにしろ。お前は自由だ」

「でも……」

「いいから行け!」



何故か、俺はイライラして吠えた。

「大事な時間を、俺なんかの為に浪費すんじゃねえ!折角のチャンスを不意にして良いのか⁉」



その言葉の意味が伝わったのか伝わってないのか……イデアは俺を見つめ、一言『ごめんなさい』と呟いてから小屋を去った。
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