【短】Reduce
5分足らずの移動だったのに、コンビニにいた数分で雨は粒が大きくなり、私の羽織ってきたパーカーにいくつもシミを作っていった。
熱いシャワーを浴びてから、一人宅飲みを楽しもう。
そう考えて、アパートの軒下で服に付いた雫を払っていると、不意打ちで声を掛けられた。
「みゃーこ?」
「………え…?…あたる、くん…?」
そこには、大きな黒の傘をさした男性が立っていて…。
ぴしり、と整えられた上質なスーツに一瞬誰だか分からなかったけれど…私のことを「みゃーこ」と呼ぶのは…この世の中でたった一人しかいない。
「久しぶり…元気だった?」
「あー…うん。あたるくんの方は?」
「俺?俺は相変わらずだよ」
屈託のない笑顔。
変わらないなぁと思いつつ。
そんな当たり障りのない会話の中でも、気になるのは向こうの左手の薬指。
あ…指輪…してない。
そのことに少々安堵しつつも、もしかしたら元々するつもりはないタイプなのかもしれないと、姿勢を正す。
「みゃーこ…?」
「あ…ううん。何でもない…」
「みゃーこ、ここら辺に住んでんの?」
「ここら辺、というか、此処?」
「…へぇ?」
そういうと、しげしげとアパートを見上げる。
その仕草になんとなく恥ずかしくなって、下を向いているといきなり、ぽん、と頭を撫でられた。
「雨の中、ごめん。そんなんじゃ風邪引くよな」
「あ、いや…大丈夫…」
そう言うと、もう一度パパパっと雨粒を払うとくすりと笑われた。