逆転結婚~ブサイクだって結婚したい~
隣に来た芹亜からは、きつい香水の匂いが漂ってくる。
香水の匂いとタバコのにおいが混ざっていて、気分を害されそうになるくらいだ。
「どこの病院なのか、教えてあげる」
と、芹亜は優輝の手を握った。
その手はとても冷たくゾッとさせらっれるくらいだった。
「その代わり、私の言う事を聞いてくれるかしら? 」
顔を近づけて、優輝の耳元で囁くように芹亜が言った。
「ねぇ社長さん。…奥様には言わないから、私と一晩付き合ってくれる? 」
「はぁ? 」
「いいじゃない、ずっと同じ女なんであきちゃったでしょう? 一晩、私の相手をしてくれるなら樹利亜の父親がどこにいるのか、教えてあげる。樹利亜なんかより、私の方がずーっといい女よ。先ずは、社長さんが私の良さを知れば、息子の副社長だって私を選びたくなるわ。樹利亜じゃなくて、この私をね」
じーっと優輝を見つめる芹亜。
その目は魔性の目のようで、相手を虜にしてしまいそうな目をしている。
「どう? 悪い話じゃないでしょう? 」
「何を言い出すかと思えば。そんな条件、受け入れるわけがないだろう」
「え? そうなの? じゃあ…樹利亜の父親、死んでもいいの? 」
「はぁ? 」
芹亜は怪しく笑った。
「知らないの? 私は医師だったの。樹利亜の父親が、どうやったら生きていられるのか、どうやったら死ぬのか。それは、私が良く知っているのよ。入院してたって、生かすも殺すも、私次第なのよ」
耳元で囁く芹亜の声が、まるで悪魔の囁きに聞こえて、優輝は恐怖を覚えた。
「私と1晩だけ付き合えば、樹利亜の父親は生きていられるのに。断ったら、明日には死んじゃうわよ」
「…貴女は、そうやって樹利亜さんを脅してきたのか? 」
「脅すなんてとんでもないわ。私は、樹利亜の父親を生かすために、お金をもらっているの。それって、当り前の事でしょう? 」
優輝は芹亜の恐ろしい目を見て、狂っているとしか思えなかった。