逆転結婚~ブサイクだって結婚したい~

 婚姻届けには忍の分がしっかり記入してあり、保証人の欄もしっかり記入してある。


「保証人は、俺の両親に頼みました。これにサインして下さい。さっそく提出しますから」

「ちょっと…待って下さい。…本気ですか? 私なんかと…」


「本気ですよ。何故ですか? 」

「私…もう35歳です。…貴方より、年上だと思います」


「はい、それが何か? 」

「それに…私…こんな顔です…」


 樹利亜はマスクを外した。


 マスクを外した樹利亜の口元は、唇は分厚く不満そうな口元をしている。

 全体的に見てもかなりのブサイクである。


 しかし、忍はそんな樹利亜を見ても特に驚く事はない。


「貴方のように素敵な方なら、私なんかよりもっと良い人が居ますから…」

「貴女より良い人とは、どんな人の事を言っているのですか? 」


「それは…。もっと、綺麗な人が…」

「ああ、顔の事ですか? 俺、顔に興味ないんです」

「え? 」


 忍はフッと笑った。


「俺が興味があるのは、ハートだけなんで」

「ハート? 」

「そうです。どれだけその人に、ハートがときめくか。それだけなんです」


 樹利亜はイマイチ言っている意味が解らなかった。

 だが、忍の目は嘘は言っていないようだ。




 話しをしていると注文した珈琲が届いた。


 甘い香りのする珈琲に、なんとなく樹利亜の表情が綻んだ。


「お砂糖はいれますか? 」

「いえ…いつもブラックで飲みますので」

「そうなんですね、俺もブラックです。同じなんですね」


 嬉しそうに笑ってくれる忍を見て、樹利亜は不思議な気持ちを感じた。



 甘い香りで、ブラックで飲んでもなんとなく甘く感じる不思議な珈琲。


 樹利亜は珈琲を飲むと、ちょっとだけ落ち着いた。

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