逆転結婚~ブサイクだって結婚したい~
「有難う父さん。何か引っかかっていた事が、分かったよ。心配しないで、俺は樹利亜と離婚する気はないから。裁判になったって、離婚に応じたりしないから」
「分かったよ。母さんにも力になってもらおう」
「母さんに? 」
「忘れたのか? 母さんは、有能な国際弁護士だぞ」
「ああ、そうだった。すっかり忘れていた」
「とりあえず、前向きになろう。自分を信じることが大切だからな」
「うん…」
それから1週間後。
あれから忍は希歩に相談して、樹利亜とちゃんと話が出来るようにしてほしいと頼んでいた。
希歩は今でも弁護士の仕事は続けているが、家庭を優先させるために、それほどの案件は引き受けていなかった。
忍から話を聞いて、希歩は澤中の事務所へ出向いて、忍が樹利亜との話し合いを望んでいることを伝えた。
しかし中澤は、樹利亜と話し合う事はできないと一点張りだった。
希歩はどこか、樹利亜が話し合いを拒んでいるのは、何か深い理由があるのではないかと直感的に感じていた。
芹亜の一件ではなく別の何かがあると希歩は見ていた。
澤中の事務所から帰り道、希歩が歩いて来ると。
駅前の通りに、あの帽子を深くかぶった女性がいた。
何となく希歩はその女性が気になった。
黒いつばの広い帽子をかぶって、顔を隠しているような女性。
服は茶色いワンピースを着て、上着を羽織っている。
かかとのない靴を履いていても随分背が高い女性。
女性は時計台の方へ歩いて行った。
時計台まで来ると、女性はそっと空を見上げた。
時刻は11時を回っていた。
平日の駅前通りは、休日に比べて人は少ない。
だが、この時計台で待ち合わせをしている人は多くいる。
11時の時刻を見て、女性は口元でそっと微笑んだ。
そして…そっとお腹に手を当てた…。
「こんにちは」
後ろから声がして、ハッとして女性は振り向いた。
すると…