逆転結婚~ブサイクだって結婚したい~
「樹利亜…」
真っ青な顔をして樹利亜を見る忍。
そんな忍を見て、樹利亜はハッとなった。
「…樹利亜…子供出来たのか? 」
そう尋ねられると、樹利亜はどう答えていいのか判らず黙って俯いた。
「どうしてだ? …なんで、勝手に決めるんだ? …俺と、樹利亜の子供なのに…。なんで? 」
震える声で忍に尋ねられ、樹利亜は重い口を開いた。
「…貴方と別れると決めたから…。そうする事が、一番だと思って…」
忍は拾った紙をもう一度見た。
その紙は人工中絶の申し込み用紙だった。
まだ何も書かれていない用紙だが、樹利亜の記入分は書かれていた。
「…俺、父さんとは10年も離れていたんだ。…双子の姉さんともずっと10年離れていた。…ずっと、アメリカにいて。どうして父さんがいないのか、疑問に思わなかったわけじゃないけど。母さんが辛そうだったから、聞いてはいけないって子供ながら思っていたんだ。やっと父さんに会えた時は、素直になれなくて反抗もしたけど。父さんと母さんが居てくれて、本当に良かったと思った。…だから、自分の子供には同じ思いは絶対にさせないって決めていた…」
忍は樹利亜をそっと抱きしめた。
抱きしめた樹利亜は、見かけよりかなり痩せていて、そんな樹利亜を感じると、忍は胸が痛くなった。
「勝手に殺さないでくれよ、お腹の子供には。俺の命だって、入っているんだぞ。…俺と、樹利亜を選んでく来てれたんじゃないか。どうして、勝手に決めるんだ? 俺は、樹利亜と別れる気なんて全くない。嫌われても、愛してゆくよ…」
抱きしめられる忍の腕の中はとても暖かくて、樹利亜の心をスッと軽くしてくれた。
「産んでもいいんですか? 」
「何言っている、当り前だろう」
「…別れるって言って、勝手に出て行ったのに…許してくれるのですか? 父と姉の事もあるのに…」
「そんな事どうでもいい。世界を股にかける宗田ホールディングを、なめるなよ。今まで、どんなに大きな事が起こったってビクともしていないんだぜ」