【完】ねぇ、もっと俺に甘えてよ?
「またひとりで泣かせるとこだった」
私へ歩み寄ると、先ほどよりも優しい声を落とす。
そんな葵くんの柔らかい笑みが瞬く間に涙で滲んでいった。
遠巻きに見ていたみんなが「なんで葵くんが?」「ただの同情でしょ」と、次々に言葉をぶつけても。
葵くんは少しも動じることなく私へと手を伸ばした。
「帰ろう、雨野」
震えを隠すようにずっと握り続けていた私の拳に触れた葵くんの温かい手。
その葵くんの手の温かさに、強ばった力が緩んでいった。
「……っ、」
私の手をギュッと握ると、薄暗い体育倉庫から外へ私を連れ出してくれた。
「俺がいるから大丈夫」
その温もりは、雨の日の帰り道と同じで。
本当は、今すぐ葵くんの胸に飛び込んでしまいたかった。