【完】ねぇ、もっと俺に甘えてよ?
例えば、本当はちょっと手を抜いていた綱引きの練習も本腰を入れたり、実行委員は仕事量が多いことにも最近ようやく気づいて、声をかけたりもした。
嫌な顔をされることもあるけれど、クラスのみんなに少しずつでいいから歩み寄りたい。
耳を塞いで、目を伏せて、逃げ続けているだけじゃダメだから。
……すると、体育祭が迫っていたある日、小さな変化が起きた。
「雨野さんのあの噂、ちょっと違うんじゃないかなって思ってるんだけど」
それは突然のことだった。
綱引きの練習メンバーのひとりの女子が声をかけてきた。
確か、一番端のクラスの子だ。
「……噂って、体育倉庫のこと、かな」
「そうそう。でも、あんなこと書かれるような人じゃないわ……って、わたしのお母さんが言ってたんだよね」
「え?」
彼女は水道で手を洗いながら、にこやかに私に話し始めた。