【完】ねぇ、もっと俺に甘えてよ?
「……頼もしくなったわね。本当に」
どこか懐かしそうに、そして穏やかに呟いたお母さんの声。
葵くんも同じようにお母さんを見ていた。
まるで、お母さんはずっと昔から葵くんのことを知っているみたい。
「空のこと、よろしくお願いします」
頭を下げるお母さんに葵くんはしっかりと頷いていた。
「お父さんが退院したら、すぐに帰ってくるからね」
「うん……私も、体育祭頑張るからってお父さんに伝えてね!」
荷物を詰めたボストンバックを手にしたお母さんを私は見送った。
私はその場で、葵くんがここへやって来た日から今までのことを思い返していた。
お父さんが一番信用しているひと……。
葵くんもまた、ずっとお父さんを信じてくれていて……。
「お母さん!待って……!」
玄関を飛び出して階段を駆け下り、お母さんの背中に叫んだ。