【完】ねぇ、もっと俺に甘えてよ?
「……で、出来ません」
怖くて、声が上手く出せない。
それでも、そんなこと絶対にするものかと自分を奮い立たせる。
大切なひとの心は、自分で守りたい。
「安心してよ。ちゃんと動画におさめてあげる。雨野は知らないかもしれないけど、今ってね、お前が子供の頃よりずっとSNSも浸透しきっているんだよ?」
八雲先生がなにをしようとしているのか、すぐにわかった。
「……私は、お父さんを信じてる。だから、絶対にそんなことはしません」
「あはは。事実かどうかなんてネット上では関係ないんだよ。騒がれればそれでいい。雨野達は世間から罵倒され続けて、生きづらくなるだろうけど。これは、償いだよ」
能面のような笑みを近づけると、八雲先生はスマホを取り出した。
「教師のくせに低俗なことをするな、とか思った?」
「……」
「失うものなんて、俺にはもう、なにひとつないから」