【完】ねぇ、もっと俺に甘えてよ?
────ガラッ!
突然、準備室の扉が勢いよく開けられた。
「栄一さんが、電話くれて……っ」
飛びつくように顔を上げると、そこには肩で息をする葵くんが立っていた。
「……もしかしたらって思ってたけど、やっぱり先生だったんでしょ?俺ずっと見てたよ」
私も八雲先生も、目を見張った。
そして、今までのことを思い返して、私は息をのむ。
葵くんはきっと、私へ向けられていた八雲先生の本当の思いに気づいていたのだろう。
「雨野や栄一さんを憎むのは間違ってるよ、先生」
「……わかったような、口をきくなよ」
やけに冷静な葵くんの声に、八雲先生が立ち上がった。
「────俺にはわかるよ、先生」
「なにを、言って……」
臆することなく足を進める。
八雲先生の前まで来ると、真っ直ぐな瞳で言った。
「あの日……栄一さんが助けてくれたのは、俺の母親だから」