数え唄
「なぁ、非凡ではない才を憎むか?」
「ああ。そりゃもうそいつに触れられるのなら握りつぶしたいほどに。」
「でもお前は平凡ではないだろう。」
「それはどうか分からない。
これといって何があったとか自分で考えても出てこないし、そもそも何が平凡なのかも分からない。
非凡じゃない事は確かに分かる。
だから平凡なんだろうと思うぐらいだ。
でもお前が、僕を平凡じゃないと言うのなら、
そうなのかもしれない。」
「お前は俺のしていない経験をしているし、
俺の知らない事を知っている。
もちろん逆も然りだが、間違いなく今この二人だけの世界ならお前にとって俺は非凡であるし、俺にとってお前も非凡だ。」
「相手よりその事を知っているから、経験しているから'優れている'訳では無いだろう。
それに世の中には知ったほうがいい事と知らないほうがいい事がある。
僕の知っている事は後者だ。
それを知っていて'優れている'とはならないだろう。
ただお前とは違う経験をして違う事を知っているだけにすぎない。」
「俺は俺が知っている事がお前の言う'知ったほうがいい事'なのか'知らないほうがいい事'なのか全くもって分からないが、やっぱり俺にとってお前は非凡だ。」
「まぁお前にとって僕はある意味"非凡"なのかもしれないな。」
「またそうやって屁理屈ばっかり。
俺はただお前に、俺の非凡ではない才がいかに憎いかについての愚痴話をしようと思っていただけなのに。
お前の屁理屈のせいでそんな気も無くなってしまった。」
「そうか。それは良かったじゃないか。
僕にとっても、お前にとっても。」
「どういう意味だよ、それは。
よくなんかひとつもねぇよ。まるでスッキリしてないんだよ。」
「まぁまぁ、とりあえず一から十まで数えてみな。」
「それで何になるんだよ。」
「まあまあ、いいからいいから。」
「分かったよ。
一、ニ、三」
「四、五、六、七、八、九、十……。」
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